十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2014年12月の記事

『聖なる夜はイミテーションで』

「ねえママ、早くケーキ食べようよ」

「ちょっと待っててイルミ。今紅茶淹れるから」

純度の高い宝石のような瞳を輝かせながら、イルミはママが淹れてくれている紅茶の香りを楽しんでいた。

二人分の紅茶を淹れ終えたママは、イルミが待つテーブルに座る。そして二人でケーキを食べているとイルミが言った。

「ねえママ、今日パパは?」

「パパはね、今日お仕事で遅くなるって。残念だけど仕方ないの。今日は先に寝なさいね」

「はーい」

するとケーキを頬張りながらイルミがママに訊いた。

「ねえママ、サンタさんって本当にいるの?」

少し返答に困ったママだったが、あらかじめ用意していた答えを言う。

「いるかいないかはイルミ次第よ。サンタさんはね、天使とか神様とかと同じような存在なの。人々の信仰によって存在している。だからイルミもサンタさんに会いたかったら信じて待つこと。そうすれば夢の中で会えるかもしれないわよ」

「ほんと! わかった。じゃ今日はもう寝る」

ママの言葉を聞いて再び目の色を変えたイルミは、ケーキを食べ終えると急いで寝支度をした。お風呂に入ってパジャマに着替え、自分の部屋に入るなりすぐにベッドに横になった。そして部屋の明りを消してママを呼ぶ。

「ねえママ、おやすみなさい」

「おやすみイルミ」

ママは商事の後片付けをしているようで、食器のぶつかる音や水の音などに混ざってママの声が聞こえた。


しばらくしてイルミが寝ついたことを確認したママは、こっそりと別の部屋に隠れていたパパを呼んだ。

「もう大丈夫よ」

「そうかい。それじゃ準備しようか」

実はママとパパは娘のイルミのために、こっそりとサプライズを計画していた。そのサプライズを知ればイルミは驚いて飛び起きるかもしれない。ママとパパは慎重にサプライズの準備に取り掛かった。

ただ、当日の準備といっても簡単なものであった。

寝静まったイルミの部屋に夫婦二人で入り、そしてイルミの首を絞めてあげるのだ。

「……ねえ……ママ?」

薄れいく意識の中、イルミは蚊の鳴くような声で訊く。すると潤んだ瞳のママが語りかけるように言った。

「ごめんねイルミ。わたしたちには本物の子どもができたの。あなたは元々他人の子。わたしたちの本当の子どもじゃない。それは前から知っていたでしょ。だからもうあなたは必要じゃなくなったの」
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『アリの塔』

住宅街の小さな公園の一角の土地にせっせと働くアリたちがいました。

そのアリたちは、何やら地面に穴を掘っています。その穴は自分たちの住処なのかと思いきや、どうやら少し違うようです。穴の入口は広く、複数に枝分かれするようでもなく、そしてなにより浅いのです。

しばらくすると、別のアリたちが何やら大きな種を運んできました。そしてそれを掘った穴に置き、その上に掘った土をかけ始めました。

アリたちに指示を出している隊長アリが言います。

「よーし、大切に扱え。これは私たちの夢がかかってるんだぞ」

「オー!!」

隊長の一言で、アリたちの士気はより強くなりました。そして種を埋め終えた翌日にちょうど雨が降り、種の埋めた地面から真っ白な芽が出てきました。それからその芽は勢いよく成長し、塔のように天高く伸びていきました。

それを確認した隊長アリが皆に言います。

「よーし、みんな私についてこい! これからこの塔を上っていくぞ。準備はいいかぁ!」

「オー!!」

かけ声とともにアリたちは、隊長アリの後に続いて列になって塔を上っていきます。

しばらく上っていくと、隊長アリの近くにいた兵隊アリが訊ねます。

「隊長、ひとつ伺ってもいいですか?」

「なんだ」

「この塔の先にはいったいどんな夢が待っているのですか?」

「それはもっと上に上った時に教えてやる。今はただ真っ直ぐ上だけを見ていろ。そうすれば夢は大きく膨らむぞ」

「はいっ!」

すると今度は列の後方にいた兵隊アリが隊長に向かって叫びました。

「隊長! 大変です。塔にヒビが入っています!」

「構うなあ! 途中で歩みを止めてはならん。足下なんか気にせず上だけを見て進め! バカモン!!」

「すみません!」

そしてついに塔のてっぺん近くまでやってきました。

「もう少しだぞお前ら!」

隊長がそう皆を鼓舞した時でした。強い突風が彼らを襲い、塔を大きく揺らしたのです。そしてまるで雷に打たれたかのような鈍い音がしました。
なんてことでしょう。塔が根元から折れてしまったのです。
塔はみるみる傾き、その塔につかまっていたアリたちも次々と放り出されていきます。

「隊長ー!!」

兵隊アリたちが隊長に助けを求めますが、その隊長も一緒に宙へと放り出されてしまっていました。

するとなぜか一人だけ冷静な隊長アリが、一番近くにいた兵隊アリに向かって囁くように言いました。

「実は私が夢見ていたものは、今のこの状況なのだ。私たちは常に地面ばかりを見てそして這いつくばりながら生きてきた。いつか天を見上げながら生きようとし、そして死ぬ時は人よりも高い場所で死にたかった。踏まれて死ぬのだけは嫌だったのだ」

「……そんな」

「皆を巻き込んで申し訳ないと思っている」

その懺悔を聞いた兵隊アリは言葉を返します。

「しかし、隊長。このままで結局地面に潰されてしまいます。さらにその後を人に踏まれるかも知れませぬ。それではあまり変わらないのでは?
それにお言葉ですが、夢は膨らませるものではありません。膨らませて破裂させてしまっては元も子もありませんから。夢は――見たり描いたり叶えたりするものだと、私は思います」



それからしばらく時が経ち、塔が折れた根元からは真っ白な花が咲いていました。その花の周りを踏みつぶす人は、もちろん誰もいません。

『あまつさえ』

「ごめんなさい」


「え、ちょ、どうしてさ」


「本当にごめんなさい。これ以上は無理なの」


「無理って、別れるってこと」


「そう」


「理由を教えてよ。そうじゃなきゃ納得できない」


「理由を話したところで、あなたは納得しないわ」


「確かに、今の状態じゃ何を言われても納得はしないだろう。だけど理由も無しに袖を分かつのはないだろ」


「本来なら、あなたに何も告げず蒸発するつもりだったの。でもね、その後のことを考えたら、なんだか惨めに思えてきて」


「そんな……」


「それに謝るべきなのはあなたよ。それを自覚してない時点で、一生納得はできないでしょうね」


「ごめん……俺に悪いところがあるなら言ってほしい。……謝るから」


「あのね、謝る時に感情が籠もっていれば、それは感謝に繋がるの。あなたには不可能だろうけど」


「……感……情?」


「あ」


「か……じょ……」


「しまった。これはアンドロイドには禁句だったんだわ。ふられた腹癒せにやるんじゃなかった」

『桐箪笥』

真夜中の静寂を裂くような音で目が覚めた。

気が付くと、目の前はまるで昼間のように明るかった。しかし、その光源は太陽ではない。赤く燃える炎であった。

火種は二階建ての一軒家。もうすでに家全体を炎が包み込んでいる。赤い車から出てきた隊員たちが慌ただしく動き、放水を始めていた。

野次馬の声が聞こえる。

――ここって空家でしょ。
――そうそう。放火かしら。
――いやだわ。まだ犯人が近くにいるかも。

心臓を鋭利な棒でつつかれた。

肺が熱くなり、呼吸が乱れる。

あの家の中には桐箪笥がある。

重要なのはさらにその中。あの中には、決して燃えてはいけないものがある。桐箪笥に南京錠をかけて厳重に保管していた。誰にも見られてはいけない。

数時間後。昼間のような明るさは消え、元通りの薄暗い夜になった。一軒家は灰色の骸骨のようになり、その前を白い車から出てきた警官が立っていた。

本当の昼間になる前に、桐箪笥の中のものを回収しなければいけない。警官の目を盗み、敷地内へと入る。
一階の奥の部屋があった場所、そこに桐箪笥がある。煤色と化した桐箪笥。南京錠の鍵を開けるのに手こずった。

「そこで何してる!」

光を嫌うのは、自分が闇の中にいる時だ。誰かがそんなことを言っていた。

図らずとも手元を照らしてくれたおかげで、南京錠の鍵を開けることができた。

足音が近づいてくるが、構うことはなかった。

引き出しを開けると、その中身は無傷だった。それを手に取って眺めていると、傍で声がした。

「お前、それはなんだ?」

「これですか、これは遺灰です。僕の……なんてね」
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