十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2014年03月の記事

『まとめ記事①』

2013年11月から2014年3月分の記事をまとめてみました。ただ、まとめたといっても、全てではなく、私しょーとの個人的ベストセレクションと題しまして、評価の良好であったものも当然ですが、恥ずかしながら自分自身が良作と感じた作品を一言コメントを添えて紹介したいと思います。

◆オマージュ
『長靴をはいた孫』 処女作です。このブログを始めるきっかけとなった作品。猫を踏んではいけません。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-1.html
『みにくい真昼の子』 明るい昼間なのに大人の目には見にくい子どもというのは、意外とたくさんいますよね。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-11.html

◆フェーブル
『ハトの談義』 ハトは平和の象徴です。でも、彼は少し違います。だけどハトに違いはありません。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-7.html
『羽根虫たちの夢』 夢に向かって飛んでいくなら、大きいに越したことはないのです。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-12.html

◆ミスリード
『悪戯好きな妹』 妹は何も悪くない。そうあって欲しいものです。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-3.html
『忘却の彼方』 最も大切なあなたへの挨拶は、忘れてはいけません。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-8.html
『少年が拾った勲績』 救いの価値観は人それぞれ。ご都合な言葉ですね。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-13.html

◆リトルホラー
『孤危千万』 本当の恐怖とは、そこにあるはずの安らぎが、突然消えた時なのではないかと。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-4.html
『無常風』 踏切近くに吹く風は、とても虚しく感じます。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-9.html
『蜚蠊を生かした彼』 生かすも殺すも彼女次第。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-20.html

◆レトリック
『日向水のような悪知恵』 知恵の働かせ方は、くだらない方が愛おしいんです。
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-5.html

◆Jスケッチ
このカテゴリは、七つの大罪をモチーフにして書きました。なので七編で完結です。ここで全て紹介します。ちなみに”J”は同一人物ではありません。
『驕りたかぶる』 傲慢
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-16.html
『邪険に妬む』 嫉妬
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-17.html
『怒り憩う』 憤怒
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-19.html
『強欲、獣を制す』 強欲
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-22.html
『餓え知らぬ』 暴食
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-23.html
『似た色の世を知る』 色欲
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-24.html
『らしく怠ける』 怠惰
http://kairotto.blog.fc2.com/blog-entry-26.html

以上です。
4月からは少しばかり更新するペースが遅くなるかも知れませんが、目標はなんとか達成できるように努力いたします。よろしくお願いします。
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『らしく怠ける』

私の担当であるJは、実は相当な大物らしい。

Jは大手不動産会社の社長であり、とある協会の会長であったり、政治家や警察関係者の上役とも通じていて、Jの一声で国を動かすことも不可能ではないのではないかという噂があるほどだ。さらにはその資産の額が、裏にあるものも含めれば国の借金をまるごと補えるという噂まである。

それにも関わらず、Jには身内がいない。結婚をしていないだけでなく兄弟もいないのだ。要するにJの資産を引き継ぐ人間が未だに決まっていない。そのおかげでJの知り合いという多くの資産家かから学生時代の友人らが、腰を低くしてJのお見舞いに来るのだから、私としてはありがた迷惑な話だ。

Jが入院してきたのは一週間前。それから今日までの間に何人のもの年季の入った自尊心を背負った人たちを見てきた。皆、同じような言葉をJに贈り、同じような言葉でJも返していた。

患者の私情に首を突っ込むわけにもいかないのだが、どうしても気になったので私は、Jに恐る恐る尋ねてみた。

「どうして皆さん、あなたのこと《王様》って呼ぶのですか?」

すると、なぜかJは肩まで伸ばした髪の毛を掻き上げる仕草をしようとして、途中で止めた。

「なに、ただの皮肉だよ。私が普段から胡座をかいてばかりいるんじゃないかっていう噂が広まっていてな。そのせいでそんな呼称が生まれてね」

「嫌じゃ、ないんですか?」

「出所は良くないが、《王様》ていう呼称自体は響きがいいからね。それにその噂、あながち間違ってはない」

Jは不気味にほくそ笑んだかと思うと、「これは秘密だけど」と前置きをしてから言った。

「私の耳は驢馬の耳なんだ」

寓話にかけたくだらない冗談だと思った。いや、それは間違いない。しかし、髪の毛に隠された耳に、生唾を飲む込むほどの存在があるような気がしたのは、Jという存在が不気味に恍惚としていたからだろう。

そしてJは最後にこう告げた。

「惰気満々としている方が、王様としても病人としても、らしくいる気がするんだ」

『お腹の白い黒猫』

雨上がりの夜。人気のない路地裏に、一匹の黒猫がいました。

その黒猫は物影を好んで歩き、あまり明るいところへは出向いていきません。それは自分の姿を誰かに見られたくないと思っていたからです。その理由は、お腹の毛の色が白く変色してしまっていたからでした。

若い頃は全身の毛の色は真っ黒であったのに、老いを感じ始めた頃からスポンジに水が染み入るように足先の毛から白くなっていきました。今ではお腹の辺りの毛まで白くなっています。これではもう、黒猫とは呼べません。

自分は何かの病気なのではないかとも疑いました。しかし、身体の調子が悪い気配は全くありませんでした。食欲もあり、脚力にもまだまだ衰えはあれど、全くできないというわけではありません。何が原因なのか黒猫は独りで考えていると、初めて見る顔の三毛猫が近づいてきて言うのです。

「お主は、何をそんなに悩んでいるのだ? ミーで良ければ聞いてやろう」

黒猫は答えます。

「おいらは元々黒猫だったんだ。それが年をとる度に毛の色が白くなっていくんだ。これじゃ、人間の頭と一緒だ。そしたらいつか、おいらの毛もすべて抜けて剥げちまうんじゃねえかって」

すると、三毛猫はお腹を抱えて笑い出しました。

「アハハ、それは大壮な悩みだ。剥げちまうってか、大丈夫だ、そんなことはありえん」

「それじゃ、どうしておいらの毛は白くなってるんだ!?」

その黒猫の言葉に、三毛猫は魂が抜けたかのようにスッと笑うのを止め、急に真剣な顔つきに変わり、黒猫の背中をさすり出しました。

「何をするんだ?」

「ちょっと聞いてもいいか?」

三毛猫の行動に不信感を抱きながらも、ただならぬ雰囲気にもあてられて黒猫は頷きました。

「お主はだいぶ背負い込んじまってるな。こんなに曲がっちまって。お主は自分自身でこれまで生きてきた時間を不毛だと思っているだろう」

確かに黒猫は、生まれたばかりに人間に捨てられて以来、人間に飼われることもなく一匹で生きてきました。満足にご飯を食べられていたわけでもなく、時にはカラスに襲われそうになったこともあります。自分が野良猫として生きてきた時間が不毛であると言われれば、そうかも知れません。

「だけどな、そんなことは今すぐに決めるもんじゃない。まだこれから先も生きるんだからな。たまには明るいところで自分の姿を見返すといい」

そう言うと、三毛猫は身を反して離れていきます。


朝になり、言われたとおり黒猫は水たまりに映る自分の姿を見に行きました。するとどうでしょう、そこにいたのは黒猫ではなく、三毛猫でした。

『似た色の世を知る』

私の幼馴染みであるJは、恋多き人だった。

Jの傍らには常に恋人がいて、その恋人は短い期間で入れ替わっている。いったい今まで何人ものの相手と浮き名を流していたのかすらわからないほど。
恋愛とは一種の良薬であり、その薬の効果が切れると禁断症状が出てしまうのだと、Jは語っていた。

そんなJから相談を受けた。Jの相談に乗るのは今までにも何度もあった。基本的にはその時に付き合っている恋人の不平不満だったり新たな恋人への悩み事だったりする。しかし、大抵Jの相談は解決策を私に求めるのではないようなので、私は適当に相槌を返すだけで十分だった。


今回もそうだった。

「いったいどうしたらいいのか、全くわからない。色々と悩みすぎて苦しいんだ。なんだか血管から血液が漏れ出して、それが身体を蝕んでるんじゃないかなあ。毒みたいに」

自分の弱いところを見せて、相手の心の隙間に入ろうとする。Jの常套手段だった。

「毒と言えば、蠍の毒って猛毒のイメージがあるけど、ほとんどの蠍の毒には人を殺せるほどの毒じゃないらしいよ。神話で女神が放った蠍に、オリオンが刺されて殺されちゃうから、そのイメージが根付いちゃったんだろうけど」

ちょっとした知識をひけらかすのも、Jの得手に帆を揚げるところ。

「そんなオリオンにはなりたくはないけど、自分はオリオンに似ている気がするんだ。……最も親しい女神に愛されていないところがね」

相槌を返す私は内心、首を傾げていた。私にとってJは、毒にも薬にもならない。

『餓え知らぬ』

私が住む近所の公園に、Jは住んでいた。

その公園には休日ともなると親子連れやカップルなどで賑わう場所なのだが、所構わずJはその一角に段ボールやブルーシートなどで居座っている。そこからは時折風が吹くと豚小屋のような異臭が辺りを包み込むので、何度か行政の人が退去勧告をしていたのだが、Jは全く動こうとはしなかった。

Jは専らごみ箱を漁り、近所のコンビニや商店街から食料を調達しているようだった。しかしそれだけでは満たされないのか、赤の他人に対してまで食料を求めたりもしていた。まだ野猿のように奪い取ったりしないだけでも救いだった。

私はできる限りJとは関わらないように努めてきたのだが、そんなある日、公園の側を通りかかった時に背の低い植木の側にいたJと鉢合わせしてしまったのだ。右手にはレジ袋を握りしめ、何やら植木の方を見つめている。Jも私の存在に気づいて振り向く。警戒範囲を示すかのようにJの身体の周りを数匹の蠅が飛び交っていた。

するとJはなぜか歪んだ笑みを見せた。そのただならぬ雰囲気に私が思わず後退りをすると、Jは何もせずにそのまま振り返り、公園の敷地内へと入っていった。

その時の私は何一つ食料となるのものを持っていなかった。何か要求されたらどうしようという緊張感から解放されて一息ついていると、ふとJが植木の側で何をやっていたのか気になった。近づいてみると植木の一部が剥げていて、露わになった土の上にコンビニで売られている菓子パンが置かれていた。どうやら封は開いていない。

なぜ食べ物を粗末にするようなことをするのか。私は憤り、すぐその菓子パンを拾ってJの後を追った。

「どうして捨てたんですか?」

追いついた私がJに向かって菓子パンを突きつけると、Jは再び歪んだ笑みを見せた。

「何の話だよ。――でもまあ、食べられるんならもらってやる」

Jはそう言うと、豚の足のような腕で菓子パンを受け取った。

『強欲、獣を制す』

私の後輩であるJは、私によく懐いてくれた後輩のひとりだった。

特別Jに対して、何か慕われるようなことをした憶えはないのが、Jは私のことを信頼し尊敬しているのだと言ってくれる。悪い気はしない。しかし私自身、他人に対して特別自慢できるような特技を得てしているわけではない。自覚がないだけかも知れないが、あまり煽てられても困るのだとJには言い聞かせていた。

ただJは勉強熱心だった。熱しやすく冷めやすいところもあったが、それでも先輩である私が教えたこと以外にも、自ら行動して知識の幅を広げていき、そこから新しいアイデアなどを次々と生み出していく。それが暗礁に乗り上げかけていた事案を解決に導いてくれることもあった。それはまるで闇夜を照らす狐火のよう。私からしたらJはもう、私に頼らずとも生きていける人間であった。

そんなJから突然連絡あり、二人で旅行にでも行かないかと誘われたのだ。どこに行きたいのだと聞くと、Jは神社などのパワースポット巡りをしたいとのこと。近くには温泉もあるのだという一言に釣られ、仕事の疲れもあった私は有休を使い、Jと二人で有名な神社を回る旅行に出た。

私の運転する車で最初に向かったのはとある有名な稲荷神社。Jと私はそこでおみくじを引いた。私は大吉だった。Jは吉。

次に向かった少し小さな神社で、Jは再びおみくじを引いた。私は先ほどの結果が良かったので遠慮した。結果は中吉。

それから五つほど神社を巡り、その度にJはおみくじを引いていった。しかし恐らくJが求めていたであろう《大吉》を引き当てることはできなかった。

私は先輩として、Jが神秘的な者に頼らざる終えないような状況であるのなら、助けてやらないわけにもいかないと思い、その日宿泊する旅館の部屋で聞いてみた。

「何か悩んでることでもあるの? もしかして恋とか?」

するとJは、いつの間にやら引いたおみくじを全て畳の上に広げていた。それは、これから呪印術でも始めるのかといったような雰囲気。そして今までに見たこともないような微笑みで答えた。

「先輩、冗談はやめてください。悩み事なんてあるわけないじゃないですか。でもそうですね、強いてあげるなら、この興奮の抑え方がわからないんですよね」

Jのその笑顔は、何かに取り憑かれたかのように不気味だった。すると今度は、鞄の中からカードケースのようなものを取り出した。よく見るとその中には何枚にも束になった紙が収められている。そしてその中に、畳の上に広げられていたおみくじを一枚一枚丁寧に仕舞っていく。

呆然とその様子を見ていた私に、Jは言った。

「明日もたくさん廻りましょうね、先輩。――それじゃ先に温泉に行ってきますね」

部屋を出て行ったJを見送った後も、しばらく私は狐につままれたかのような気持ちだった。