十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2013年12月の記事

『みにくい真昼の子』

今回は、『みにくいアヒルの子』ではなく、『みにくい真昼の子』です。


子どもが大好きな私は、早く自分の子どもが欲しいと思っていながらも、現実問題そう簡単にはいかず、そのもやもやをある毎日の行動で解消していました。
それは近所にある幼稚園の周りを散歩することでした。遠くからではあったのですが、子どもたちが外ではしゃぐ笑顔や甲高い声を聞くだけで、仕事のストレスも解消できるのです。だから仕事の休みの日には欠かさず、金網越しに園児たちを眺めていました。

そんなある日の昼下がり、私がいつものようにその幼稚園の前を通ると、ちょうど木陰に隠れるようにして一人の園児が金網を背に座り込んでいました。他の園児たちは、園内にある遊具や先生たちと楽しそうに遊んでいるにも関わらず、その子はぽつねんとしています。気になった私は、声をかけてみました。

「どうしたの君?」

私の声に心底驚いたのか、その園児はまるで幽霊でも見たかのような表情で振り向き身体をびくつかせました。

「あ、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだけど」

園児は私のことを見るなり、金網に近づいてきて私の顔をじろじろと見つめてきました。その様子に私が首を傾げていると、唐突にその園児が言いました。

「おまえ、けっこうブサイクだな」

「なっ!」

混じり気のない園児のストレートな言葉に一瞬面食らった私は、おそらく酷い顔をしていたことでしょう。言葉を返すこともできません。
私が今まで生きてきた人生の中で、面と向かって自分の顔の評価をもらったのは初めてでしたが、自分の顔にはそこそこ自信もありました。だからこそ、その言葉は私に精神的な動揺を与えました。
ただ、幼い子にはそう見えたのかも知れません。それを素直に言っただけのこと。そこで反抗するのは大人のすることではありません。

しかし園児はその後すぐに別の言葉を発します。

「それに、つまらない目だね」

園児はそう言うと、こちらが言葉を返す暇なく、まるで忍者のように他の園児の衆に中に紛れて見えなくなりました。


なんだか、言われたままで終わるのは、妙に複雑で気分の悪いものでした。それに最期の言葉の真意についても気になります。だからそれからの日々は、幼稚園の側を通るときには必ず、あの時の園児を捜すことに集中しました。しかし、あの園児は二度と同じ場所に姿を見せず、園児の衆の中から捜そうとしても、全く見つかりませんでした。

そういえば、他の園児には必ず付いている名札が、あの園児にはなかったように思います。
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『似非な粋が枕籍する夢枕』

公園を二人で散歩をしているときに、普段は無口な彼がさりげなく口からこぼすようにこんな話をしてきた。

「あの花の名前は、日本水仙だね」

急にどうしたの? と喉元まで出かかったのだが、彼の不自然な遠い眼差しに、その言葉を飲み込んだ。

「水の仙人だから水仙。ふふっ、なんか笑っちゃうよね。花に仙人って名前つけるなんて」

どこがおもしろいのか、私にはちょっと理解できなかったので、首を傾げて反応する。しかし彼は私の方に一瞥もくれず話し続ける。

「由来については色々と逸話があるみたいだけど、だからって仙人じゃなくてもね。それに日本水仙の球根は有毒なんだよ。神経を麻痺させちゃうんだ。それに日本水仙の花言葉は《うぬぼれ》。誰がどうしてそんな花言葉をつけたんだろう」

「ねえ、どうしたの?」我慢ができなくなった私はそこで問い詰める。

「え、ああごめん。これ、全部請け売りなんだ。それにまだもう少し続きがあるから」

彼はそう言うと、その水辺に生える日本水仙の近くまで行き膝を曲げた。

「なんか、かわいそうだなって思うんだ。人間に勝手に名前とか意味をつけられて。この世に或る全てのものには意味があるけど、それは意味のないものに人が意味をつけたがるからなんだよ。人は昔から、意味のないものに対して不思議と虞を感じるんだ。だから未確認生命体とかっていうのは、その対象として祭り上げられることが多いのかも知れない」

そこまで言うと、彼は立ち上がり私の方に向き直ると、徐に鞄の中から一冊の本を取り出した。

「これの中に書いてあった」

「それって小説?」

「うん。いつもこれを枕元に置いてるんだ。大好きな本だから」

すると彼は再び鞄の中を探り始め、そこから小さな何かを出すのと同時に言った。

「僕らの関係にも、そろそろちゃんとした意味をつけようかなってね」

『無常風』

僕が小学三年生のころの話。


僕が通う塾から自宅まで自転車で帰る道の途中に、歩行者しか通り抜けられないほどの小さな踏切があった。警報器や遮断機のないその踏切には、バイクなどが入らないように両側の出入り口にポールが立っているだけで自転車は降りれば通れる道だったので、僕は毎日のように利用していた。

その日もいつものように夕暮れ空の下、自転車でその踏切まで来た時にタイミング悪く自転車のチェーンが外れてしまった。僕は自転車を道の端に止めてチェーンを直していると、ふと踏切の向こう側に誰かがいる気配を感じ見ると、自分よりも小さな背丈の女の子が立っているのが見えた。

ランドセルを背負い、こちらをじっと見つめている。踏切を渡るのが怖いのだろうか。僕は手を止めて電車が来ていないか確認すると、まだまだ、電車がやってくる気配はない。後から来る友達でも待っているのかも知れないと思い、僕は再び自転車に注目する。

すると遠くから電車の警笛が聞こえてきた。この警笛が聞こえてくると数秒後には電車がこの踏切を通過する。今チェーンが直ってもすぐには渡れない。しばらく電車を待たなければいけないなと思っていると、女の子の声で「ママー!」という叫び声が耳に入ってきた。



僕は顔を上げた。


それと同時に目の前を、大きな鉄の塊が突風とともに通過する。


女の子の声はその突風にかき消され、今は烈しい車輪の音すら聞こえない。



電車が通り過ぎた後、踏切の向こう側には誰もいなくなっていた。背中を刺すような悪寒に襲われた僕は、チェーンが外れたままの自転車を押して、すぐに踏切を渡りその場から去った。

翌日の朝会で、校長先生の口から昨日の踏切事故により、一人の児童が亡くなったと告げられた。亡くなったのは小学三年生の男子児童らしい。

『忘却の彼方』

「おはよう」

毎朝、仕事にでかけようとすると、玄関を出てからバス停までの道中でこうして挨拶をされる。
挨拶は社会人としての礼儀であるし、ご近所同士の何気ないコミュニケーションとしても便宜な道具だ。挨拶さえしておけば、根拠のない信頼を相手は勝手に抱いてくれるし、時には手助けもしてくれることもある。ただ逆に、挨拶をしないだけで、その相手への猜疑心を勝手に抱き、誤解を招くこともあり得る。


いつも元気よく挨拶をしてくれるのは、家の隣で豆腐屋を営んでいるケーちゃんだ。スポーツマンのような体格から発せられる声は目覚めには丁度いい。年も近いことから仲良くしてもらっている。

次に毎朝犬の散歩をしているピンクのおばさん。ピンク色が好みらしく、いつもピンク色の上着やシューズを履いている。愛犬にもピンク色の首輪をつけているのだから本物だろう。名前は聞いていないのだが、愛想が良く親しみやすい人だ。

そして同じ時間のバスに乗るOLの道井さん。職場は違うが、同じ停留所で乗車するので毎日挨拶を交わした後、バスの中でお互いの仕事の話などをする仲だった。


ただ唯一、一度だけ挨拶を返し忘れた人がいる。それは人生最大の汚点だった。それ以来、挨拶どころか顔すら会わせたくないらしく、どこか遠くに行ってしまった。

一度掛け違えた歯車は、もう全く別の滑車を動かしている。動いてしまった歯車を、元に戻そうとしてもそう易々できるものではない。

あの人がいなくなってから、もうずいぶんと経つ。今思い返してみても、忘れた原因がわからない。いや、正確に言うならば、もう思い出せないのだ。あの日の朝、自分が目覚めてからバスに乗車するまでの間の記憶が、濃い霧に包まれてしまったかのように。

あの人の正確も。

あの人の容姿も。

あの人の名前も。

覚えているのは、あの人が玄関で見送っていてくれていたということだけ。

『ハトの談義』

田舎主人に飼われているニワトリのところに一羽のハトがやってきました。

「おい、ニワトリや。君たちはそんなところにいて幸せなのかい?」

ニワトリは柵の内側にいて、ただ黙々と餌を食べ続けます。するとニワトリが一言返します。

「おれたちは、毎日こうして食べ物に困らないからな」

ニワトリたちの様子を眺めていたハトも言い返します。

「お前たちは何も知らないのか? そんなに食ったって、最期は人間に食べられちゃうんだぞ」

「そんなこと知ってるさ。仲間もすでに数羽食われてる」

「知っていて、なぜ食うのをやめない?」

「それがおれたちの宿命だからさ」

その言葉に、ハトも声を詰まらせます。すると、今度はニワトリの方から聞いてきました。

「あんたたちハトは、いつも何食ってんだ?」

ハトは胸を張って答えます。

「そりゃ、いろんな物さ。お前たちみたいに毎日同じものばかりじゃ、飽きちゃうからな。それに人間に食べられる心配もない」

「そうか。でもよ、どうして同じ鳥なのにあんたたちを人間は食おうとしなんだろな」

「……まあ、不味いからな」

「不味い? どうして?」

「俺がいつも食ってるのは、ゴミばかりだ。美味いものに巡り会えるなんてのは稀だからな。でもだからって、僻んでるってわけじゃない。人間に食われないためには仕方ないんだ」

「わからないな」ニワトリは小さく呟きます。

「どうせ俺たちの命は短いんだ。それだったら美味いもの食べて死んだ方がいいだろう」

ニワトリのその言葉に、ハトは逆捩じを食わせます。

「それはただの諦めだ。諦めた奴には救う価値なしだ。ほらお前にも迎えが来たみたいだぞ。それじゃあな」

ハトはそう言うと、空高く飛んでいきました。飛び去った後には1本の羽根が落ちていました。その羽根はカラスの羽根のような色でした。
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