十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

2013年11月の記事

『半可な王様』

『裸の王様』ではなく『半可な王様』です。


その王様は、まだ王様となって七日目でした。王様の父上が突然病に倒れ、心落ち着ける間もなく王様となったのでした。正直なところ、この王様は自分が王様になることを渋っていました。しかし、王様には他に兄弟もおらず、母上は父上よりも前に亡くなっています。
そのため、王様とはいったい王様とはどんな事をすれば良いのか全くわかりません。ただ、もちろん父上の姿を見て育ったので、格好だけはつきます。しかし、具体的にどんな仕事をしていたかまでは、わかりません。

すると、側に仕える兵士が言います。

「王様、まずは人の善悪を判断する目を養うことから始めてはいかがでしょう?」

――王様とは国に住む多くの人々の一番上に立つ存在。その存在が確たる正義の下で国を治めてこそ、他国にも誇れる王となれようぞ。

父上の言葉を王様は思い出します。そして王様はまず、この国で罪を犯した者と話しをしようと決めました。悪しき人とそうでない人を区別する目を養うためです。王様の住むお城の地下には、様々な罪で捕まり牢屋で暮らす者がいます。

その中から王様が話し相手に選んだのは、顔中に深い皺が刻まれた老人でした。老いたる馬は道を忘れずとはよく言います。その老人の罪名は窃盗。何度も罪を犯しては捕まっている常習犯でした。

「お主はなぜ、人のものを盗むのだ?」王様は訊きます。

「私は欲が抑え切れんのです。人が持っている物が欲しいとすぐに感じてしまい、気づいたときには盗んでおるのです」

「いくら盗んでも、次から次へとその欲が出てくると?」

「そうです。今も、私の欲は尽きません。王様が着てらっしゃるその服さえも欲しいと感じてしまうのです」

「そうか。ならばこの服をお主にくれてやろう」

そう言うと、王様は自らが着ていた王の証でもある服を脱ぎ、その老人に与えます。服を受け取った老人は、すぐにその服を着て言います。

「これは、なんと素晴らしい服でしょうか。私が今まで盗んだ物の中で一番といってもいい」

そんな喜ぶ老人に対して、裸になった王様は微笑みながら言いました。

「では、お主が今日から王様だ」
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『日向水のような悪知恵』

今年からぼくのが通う小学校に新しく赴任してきた大蔵先生は、とても堅物な人でどの児童に対しても心を開かず、怒ると鬼のように怖かった。男子児童に対しては拳骨を食らわすこともしばしば。そんな大蔵先生に対して、ぼくと友人の海斗はなんとか仕返しができないかと日々考えていた。

そんなある日、海斗が良いことを思いついたとぼくに話してきた。それは大蔵が通勤で使っている自慢のスポーツカーのフロントガラスを汚して困らせてやろうというもの。どのようにして汚すのか。そこがポイントだと海斗は言った。

「カタツムリを使うんだ」

海斗の作戦はこうだ。
まず最初に一匹のカタツムリを車のフロントガラスに這わらせる。それを毎日繰り返す。そうすれば、すぐには誰かの仕業だとは気づかない。そして雨が朝から降っている日を見計らって、それまで大量に捕まえていたカタツムリをフロントガラスに這わらせるのだ。

ぼくもその作戦に乗り、二人でできるだけ多くのカタツムリを集めた。ちょうど季節も梅雨の時期だったからこそ、海斗も思いついたのだろう。カタツムリは合計で十匹も集まった。そして僕らの仕返しは、お天気お姉さんの梅雨入り宣言とともに始まった。

朝、厚い雲が空を覆う中、海斗が一匹のカタツムリを大蔵のスポーツカーのフロントガラスに置いてきた。そして下校の時間、ぼくらはこっそりと教職員の車が置いてある駐車場に向かうと、すでにカタツムリの姿は見えなくなってはいたが、確かにそこにはカタツムリが通った跡がくっきりとフロントガラスに残っていた。

一匹のカタツムリを失ったのは痛かったが、また捕まえれば良い。雨の降るその時までに新しく捕まえておけばいいのだから。そんなふうに思っていたら意外にも早く最終決戦の合図は来てしまった。

翌日は朝から雨だった。海斗と相談して、最終決戦は二日後にしようと決めた。それまでは一匹ずつを繰り返す。お天気お姉さんによれば、今日から三日間は雨が続くらしい。

そして二日後、ぼくらは集めたカタツムリを持って学校へと向かった。その日は休日でぼくら以外に他の児童はいないので、校舎の裏から入り駐車場に向かうと、いつもの場所に大蔵先生のスポーツカーは駐めてあった。肌にへばりつくような雨が降り続いている。ぼくは急いで集めたカタツムリたちをフロントガラスの上に置き、すぐにその場を去ろうとしたのだが、海斗は何やら違うことをしている。ぼくが訊くと海斗は悪戯に微笑んだ。

「カタツムリにはこれだろ!」

そう言って、海斗は自分のポケットから袋を取りだし、カタツムリの乗ったフロントガラスに白い粉のようなものをばら撒いた。そして一目散に走り出す。一瞬ぼくは面食らい、呆然としていたのだが、すぐに海斗の後を追ってその場から離れた。

後から訊くと、撒いたのは塩らしい。そして画に描いたような笑みで海斗は言った。

「敵に塩を送ってみたかった」

海斗は最近ことわざにはまっているのだとか。

『孤危千万』

カーテンの隙間から細く鋭い夕日が、リビングを割くように差し込んでいた。僕はいったい、これからどうすればいいんだろうか。

※ ※ ※

先夜の事だ。僕が学校から帰宅すると、一軒家である我が家の様子がいつもと違った。しかし、僕はそれに別段驚きもせず、持ち出していた合い鍵で家の中に入った。
様子が違ったのは、僕の両親が結婚二十周年のお祝いで、今朝から海外旅行に出かけているためだった。灯りはついておらず、家の中は薄暗かった。「ただいま」と小さく声をかけても当然返事はない。僕はリビングには向かわず、そのまま自分の部屋に入ると、ベッド上に横になった。

普段なら、母親がキッチンで夕食の準備をしてくれているはず。そしてしばらくすると玄関から父親が帰ってくる。そして家族でご飯を食べる。それが習慣であり、なにげない日常だ。だから今日から数日間は、自分でご飯を用意しなくてはならない。レトルト食品を買い込んであったので、準備に苦労することはないが、自分で全てをこなさなくてはならないことが面倒だった。しかしお腹は空く。しばらくしてベッドから立ち上がり、自分の部屋を出ると、リビングにある固定電話が鳴り出した。

僕がリビングに向かうと、ちょうど音が途切れた。誰からだったのだろうと、固定電話のディスプレイを覗いたのだが、すでに暗くなっている。悪戯か間違いかのどちらかだろうとリビングからキッチンに向かおうとすると、再び電話が鳴り出した。今度はしっかりとディスプレイを確認すると、そこには《非通知》と表示されていた。

僕は電話に出るべきか迷ったのだが、気づいたときには受話器を握りしめていた。


「もしもし」


受話器の向こう側からは何も聞こえない。その厭な間が数秒間続いた刹那、耳馴染みのある声が聞こえてきて、僕の緊張の糸が解れた。


「もしもし、修太。お母さんだけど」


「なんだ、お母さんか。なに、どうかしたの?」


僕の問いに、母はすぐに答えない。その様子は、僕に少しの違和感を与えた。そして母は言葉を選ぶように口を開く。


「あのね。修太に言っておかなくちゃいけないことがあるの」


「え、なに?」


「……実は、お父さんとお母さん、もうすぐ死ぬの」


「は?」


「――おい」


受話器に向こう側から、母ではなく別の人間の低い声が微かに耳に届いた。それと同時に通話が途切れた。あれは恐らく父の声だ。

規則的に流れる電子音が、僕の鼓動を破調させる。そしてリビングの温度が霊安室のように下がった気がした。

『悪戯好きな妹』

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『嘘つきイバラの枯凋』

深い森の一角に、山から流れた清水でできた小さな湖があります。

その湖畔に1本の真っ赤なイバラが咲いていました。そのイバラはとても不思議な花で、なんと人の言葉を喋るのです。森で迷い、湖の水で喉を潤そうとして近づいてきた旅人たちに話しかけるのでした。旅人たちの間では、そのイバラは湖の妖精なのだと噂されていました。

そして今日もイバラは話しかけます。


「そこの旅人よ。あなたはどこからいらしたの?」


旅人は答えます。「東の都からです」


「東の都の出身の人は、この水を飲んではなりませんよ」


「それは、どうしてですか?」


「あなたたちの血はとても濁ってらっしゃる。だからこの純粋な水は、あなたの血には馴染みませんの。水と油というわけです」


「僕の血が油だっておっしゃるんですか?」


「気を悪くしたのでしたら謝ります。しかし、この湖の水はとても清らかで、塵ひとつ浮かんではいないのです」


旅人は悩みました。聞いた噂だと、このイバラの妖精の忠告に抗った者は、二度とこの森から出ることができないのだと。しかし旅人はとても喉が渇いておりました。今ここで喉を潤さなければ、干からびてしまいそうです。

たとえどちらの道を選んでも、無事にこの森を出ることができないのなら、せめてこの美しい水を飲んで人生を終えようと、旅人は考えました。
旅人は素早く湖に近づき、両手で水をすくいその透き通った水を自らの口にふくみます。

ああ、なんて冷たくて美味しいのでしょう。こんなに美味しい水は今まで飲んだこともありません。まるで全身の毛穴から水を染み込ませたかのように感じました。
もう旅人は自らの過ちに、なにひとつ後悔はありませんでした。生きている間にこんなにも美味しい水が飲めたのですから。

すると旅人の耳には、どこからか泣き声が聞こえてきました。その泣き声の主はイバラでした。


「あなたは、大変なことをしてしまいましたね。実はこの湖の水は猛毒なのです。私はあなたの命を助けたかった。油なのはこの湖の方なのです」


旅人は首を傾げました。こんなに美味しい水が猛毒のはずがありません。このイバラは嘘をついている、そう思いました。
しかしイバラは泣き止みません。


「こんなに悲しいことはありません。私はもう、駄目かも知れない」


イバラは何を言っているのでしょうか。旅人はイバラの言葉を訝しります。

すると、そのイバラの様子が徐々に萎れていくではありませんか。イバラですので涙は流れていないのに、イバラの花びらや葉がみるみるうちに萎れていきます。
そしてとうとう見るも無惨な姿に枯れてしまいました。枯れるとともに泣き声も止みました。


しばらくの間、湖畔一帯に乾いた静寂が訪れました。

旅人は思うのです。
自らの命を犠牲にしてまで飲んだ水は、結果的にはイバラを枯れさせてしまった。
確かにイバラは嘘をついていた。
しかしそれは旅人のためにではなく自分自身を守るために。
そして最期まで、自らを犠牲にして魔性な言葉を残していったのだと。

『長靴をはいた孫』

『長靴をはいた猫』という物語は有名ですが、『長靴をはいた孫』という話をします。


これは山間にある小さな田舎町に住む、おじいさんとその幼い孫のお話。

ある孫の誕生日に、おじいさんは新しい長靴をプレゼントしました。それまで孫は、だいぶ前に買ってもらった一足の靴だけを、晴れの日も雨の日も毎日はいて過ごしていたので、ものその靴は泥で汚れボロボロになっていました。

孫はその長靴をたいそう喜びました。その日から晴れているにも関わらず、孫はその長靴をはいて外で走り回っていました。

それから数日が経ち大雨が降り出しました。孫は待っていましたと言わんばかりに、合羽を羽織って長靴をはき、雨の降る中家を飛び出していきました。

おじいさんは最初、喜びはしゃぐ孫を見て微笑んでいましたが、その日の雨は普段よりも強く、まるで車軸を下すような雨だったので、孫は大丈夫かと一抹の不安を抱えました。

すると居ても立っても居られずおじいさんは、急いで孫の後を追い雨の中へと駆け出します。薄暗い町中をしばらく捜すと、遠くの方に白い合羽を羽織った孫の姿を見つけました。

孫は畦道の近くで足をばたばたさせてはしゃいでいるようです。恐らく水たまりで遊んでいるのでしょう。おじいさんは精一杯の大きな声を出し孫を呼びますが、雨音のせいで孫は全く気がつきません。なのでおじいさんは、声の届く距離まで近づいていきました。

すると、近づく途中で孫の動きがぴたりと止まり、自分の足下を見つめたまま案山子のようにそのまま動かなくなりました。

どうしたのかと思い、おじいさんは孫に問いかけます。するとその声に気づいた孫は、おじいさんの方を振り返りこう言いました。


「……猫ふんじゃった」