十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

カテゴリー "エスプリ" の記事

『くらむ』

「……ねえ、三組の山田君が、水島さんと一緒に帰ってたってるところ、見ちゃったんだけど」

「ああ、なんか最近、付き合い始めたみたいだね」

「え、あんた知ってたの?」

「まあ、風の噂で聞いただけだけど……」

「そう……。しかもその二人、自転車で二人乗りしてたんだよ。山田君がこいでる自転車の荷台に水島さんが乗って」

「掴まってた?」

「え?」

「いや、だから、ちゃんと掴まってたのかって聞いてるんだよ。水島さんが山田の腰に」

「いやいや、そんなところまで見てないよ。だって私、二人が付き合ってること自体知らなかったんだから。二人が仲良く二人乗りしてるって事実だけで、もう頭真っ白だよ」

「あれ、お前山田のこと好きだったんだっけ?」

「はあー、好きじゃないし。ていうかあんたが水島さんのことずっと好きだって、私に相談してたんじゃない!」

「ああ、そうだった。それじゃ尚更ちゃんと見といてくれよ。腰に手を回しているかどうかは重要だぞ。それで二人の関係が、どこまで進んでいるのかがよくわかるんだから」

「……そう、だよね。このこと、本当はあんたに伝えるべきか迷ってたんだけど、もう知ってたなら、私も冷静になってちゃんと見ておけば良かったかも」

「お前さ、視力だけは良いんだから、そのところちゃんと見といてくれよ」

「だけは、余計」

「お前も誰かに恋してるのか?」

「え、なんで急に?」

「だって恋は盲目っていうだろ」

「それは喩えであって、その好きな人ばかりに気を取られちゃって、他のことに意識が向かなくなっちゃうことを言うんだよ。だから、私は別に……」

「良かった」

「え、何が?」

「俺は今、ちょっと目の前が真っ白だよ」

「まあ、そうりゃそうだよね。好きな人に彼氏ができちゃったんだから」

「いや、そうじゃなくて……お前が眩しく見えて困ってるんだ」

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『むくいる』

「先輩、実はわたし、好きな人ができちゃったんです」

「へえ、そうなんだ。あれ、もしかしてその人物は先輩でしたってオチ?」

「何言ってるんですか。勘違いも甚だしいですよ」

「辛辣だなあ。良いじゃないか少しぐらい期待しても」

「ダメです。先輩には素敵な奥さんがいるじゃないですか」

「そうだった。ごめんごめん」

「そうですよ。それで、誰だと思います?」

「えー誰だろう? もしかして、おれの親友の慎一とか?」

「ぶー、違いまーす。ヒントは、意外な人です」

「意外な人? まさか弟の圭介じゃないだろ」

「残念、はずれです。正解は、元カレです」

「え、どうしてさ。あんなに酷いことされてたのに」

「なんか、どうでも良くなっちゃったんです」

「ダメだよ、そんなんじゃ。相手はしっかり選ばないと」

「良いじゃないですか、好きになるぐらい。別に告白するわけでもないのに」

「そうだけど、なんか裏がありそうだね」

「あ、やっぱりばれちゃいましたか。復讐ですよ。あいつ今、楽しそうにかわいくない女とイチャイチャしてるんで」

「ああ、なるほど。でも復讐は良くないよ」

「それじゃ言葉を変えて、お礼参りに行ってきます」

「ヤクザみたいなこと言わないでよ」

「違います。わたしあいつに殺されましたけど、感謝してるんです。先輩とこうしていつでも話せるんですから」

「なら、その役目はおれだろ」

「いいえ、先輩じゃあいつを殺しちゃうでしょ。わたしはあいつに取り憑いて、苦しめてやるんですから」

『はじる』

「ねえ秀也、あんた彼女でもできたのかい?」

「え! いきなりなんだよ」

「だってさ、最近あんた携帯ばかり握っちゃって。携帯が恋人みたいにさ」

「はあ? ちげえよ、ゲームしてんだよ」

「ゲーム? あんたはゲームしながらニヤニヤするんかい」

「楽しいんだよ。悪いか」

「別に悪いなんて言ってないじゃん。……あれ、もしかして図星だった? そんなに強く否定するなんて、逆に怪しい」

「うるさい。お母さんには関係ないだろ」

「あらやだ。ふくれっ面なところを見るとますます怪しいわ」

「だから違うって」

「もう、恥ずかしがっちゃって。昔は真里ちゃんが好きって笑顔で言ってたくせに」

「そ、そんな昔のこと覚えてねえよ」

「でも、そのあんたも大人になったってことね。羞恥心は大人の証ね」

「それじゃ、お母さんも気をつけなよ」

「え、何を気をつけるって?」

「羞恥心を忘れないようにだよ。最近裸で家の中歩き回るんだから」

「……本当ね、思い返してみると色々心当たりがあるわ」

「呆けているわけじゃないんだから、忘れないこと。羞恥心。お母さんが子供に戻っちゃったら、困るのはこっちなんだから」

「そうね。気をつける。――って上手く話すり替えたわね」

「お母さん。遠慮ってのも大人の証じゃないかな」

『あいすむ』

「これ、先輩の請け売りなんだけどね」

「何だよ急に」

「いいから聞けよ」

「うん」

「クリスマスの日にイルミネーションを見に訪れるカップルは盲目になるんだ」

「それってただの皮肉ってやつじゃ……」

「いや、まだ話は終わってない。でも確かに盲目になるのは、その雰囲気のせいでもある。だけど、そのカップルたちの背後には目に見えない導火線がついてるんだ」

「導火線? それに火をつければ爆発するってか」

「鋭いな。でも、ただ爆発するんじゃない」

「カップルを爆発させるって時点で、皮肉丸出しじゃないか」

「まあ、聞いてくれ。爆発はする。でも黒い煙を立たせて爆発するんじゃない。空に舞い上がり、虹色の閃光となって爆発するんだ」

「……それって花火になるってこと?」

「そうさ。行き交うカップルたちは夜空に舞う花火となって、よりいっそうクリスマスを彩ってくれる」

「う~ん。まあ、喩えとしてはおもしろいかもな。でもさ、その導火線に火をつけるのは誰なんだ?」

「そこが重要なんだ。点火するのは、クリスマスに独りぼっちの人間でも、ベテランの花火師でもない」

「じゃあ、誰なんだ。まさか『おれだ!』って言うんじゃないだろうな」

「……まさか。その導火線を見つけるには二つ条件が必要なんだ」

「条件?」

「そう、ひとつは自分自身がカップルでいること。そしてもうひとつは、その相手と永遠を誓い執行すること」

「それってつまり、老夫婦ってこと?」

「ご名答。しかし老夫婦となると夜目が鈍い。更には寝るのも早い。だから、恋人花火師はなかなか見つからない。残念なことにね」

「なんだよ。恋人花火師って」

「喩えさ。愛を具現化する技師は一人じゃ出来ない。どちらもカップルじゃなきゃならないんだ。そして導火線に火がついたカップルは花火となり、いつしか自らが恋人花火師となる」

「なあ、もしかしてその請け売り先の先輩って……」

「そう、俺のおじいちゃんおばあちゃんのさ」

『ほりくずす』

「俺の彼女がCMに出るらしい」

「へえCM、すごいじゃん」

「まあでも、ちょい役らしいよ。某回転寿司のやつで、美味しいって一言いってるらしいんだけど」

「それでもすごいって。女優目指してるだろ、彼女」

「そう。応援してやりたい気持ちもあるんだけどさ……」

「自分が惨めに思えてくるって?」

「ああ。一度は俺も目指した世界だからな」

「そうだよな。お前らは養成所で出会ったんだもんな。今や彼女は女優への階段を上っていて、お前はしがないバイトリーダー」

「言ってくれるな。ただ、俺は彼女を信じている。それが出来なくなったら終演だろ」

「次第に忙しくなり、二人で会える時間が少なくなっていく。すれ違い、言い争いが増え、そして二人の恋物語はエンドロールへ」

「やめろやめろ。いくらお前が脚本家を目指しているからって、俺の人生を勝手に描くな」

「悪いな、しかし今のお前の人生、ありきたりすぎて描くには少し物足りない」

「物足りないって、事実は小説よりも奇なりって言うだろ。これから俺もお前も驚くような人生が待っているかもしれない」

「……まあそうだな。ただ、それにはオレサマが加わる必要があるだろ」

「なんだよ、それ。急に態度変えやがって」

「なあに、お前を主人公にして、オレサマが語り手となり、今までにない恋物語を紡いでみせるよ」

「変に自信があるんだな」

「お前もそのうち気づくさ。己の中の眠った本能に」
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