十文字掌編小説ぶろぐ

べんべんとした日常に豊かな物語を。短くたって構わない。豊かなものでさえあれば。 不定期の更新です。月3回を目標に。

カテゴリー "オマージュ" の記事

『三太郎』

 さて、今回は日本昔話にある『~太郎』のオマージュです。


 とある村に三人の兄弟が住んでいました。その三兄弟に両親はおらず、三人が手分けして仕事や家事をこなしていた。しかし三人には、とても厄介なことがあったのです。
 それは、三人の名前が「太郎」と同じ名前だったのです。

 次男の太郎は他の二人のことを「お兄さん」と「弟」と呼びます。一番下、末っ子の太郎は「お兄ちゃん」と「二番目のお兄ちゃん」と、二人とも上手く使い分けていました。

 ただ、最も苦労しているのが長男の太郎です。下の二人はともに弟。「弟」や「太郎」と呼んでも、すぐにどちらを呼んだのかわからず、決まって意図した相手に声をかけられませんでした。
 そこで長男は兄弟で話し合いをすることにしました。

「いいか、お前ら。俺たち兄弟は皆“太郎”という名前だ。これは大変重要な問題である。今までお前ら二人は上手く過ごしてきたのかもしらんが、俺にとっては極めて不愉快だった。それにだ。百歩譲って俺はいい、しかし周りの人間からしたら、兄弟同じ名前というのは、実にややこしいはず。故に、俺から名前の変更案を提言する」

「え、名前を変えるだって!」と次男。

「今更、変えたら友達になんて説明すれば良いんだよ」と三男。

 どうやら、二人は名前を変えることに否定的でした。それでも長男は押し切ります。

「ええい! うるさい。もう俺の中では決めてある。大丈夫、そんなに突飛な名前にするつもりもない。まず長男である俺が“一太郎”。次男であるお前が“二太郎”。そして三男であるお前が“三太郎”だ」

「ええ、なんか俺の名前ダサいよ」と次男。

「それは単純すぎるよ。折角なら、潤とか翔とか格好いい名前にしようよ」と三男。

 わがままを言う二人に、長男は用意していた奥の手を出すことにしました。それは、村の村長に説得してもらうことでした。
 長男は二人を村長のもとに連れて行き、名前を変えたいという相談をしました。すると、村長は言ったのです。

「お主ら兄弟。生まれた時より名前が太郎というのは、デタラメじゃ」

「え!」と兄弟が声を合わせます。

「もとより、お主らは森で拾った子。名前など無かった。だから我々からしたら、全員太郎のほうが都合が良いんじゃ」

「都合が良いって……?」

 長男が思わず声を漏らすと、村長は一度咳払いをしました。

「なに、不安に思うことはない。お主らは今まで通り太郎のままで過ごしてればいい。この村に来て、面倒を見てやった恩を忘れるんじゃあないぞ」

 それから村長は、兄弟を言葉巧みに説得し家に帰しました。静かになった家で、村長はひとり呟きます。

「もうそろそろ限界じゃの。明日にでも、飼い主を探しに行くとするか」

 そんな村長の手には、バツ印のついた名簿が握られていました。
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『雨雲と満月』

 今回はイソップ寓話『北風と太陽』のオマージュです。


 太陽が沈んだとある夜空に、それはそれは大きな雨雲がやってきました。
 雨雲は今まさにその身体に溜めた雨水を降らせようとしています。そこに上から見ていた満月が声をかけました。

「ちょっといいですか、雨雲さん」

「なんだ満月。俺は忙しいんだ」

「貴方は雨を降らし、人間を濡らすけれど、それは良いことなのですか?」

「良いこと? そりゃ俺の雨がなけりゃ、人は生きていけないだろ」

「でも、貴方の雨は人を殺しはしませんか?」

「まあ、確かにな。土を削り川を氾濫させることもある。だが、それ以上に人間を救ってもいる。人間は水がなきゃ生きていけないからな。ただ、それが良いことなのかは、俺に判断はできねえな。それよりもお主は、人間に対して何かもたらしているのか?」

「わたしですか。そうですね、特に何も」

 そう語る満月は、すました顔で堂々としています。その態度に疑問を抱いた雨雲は、問い質しました。

「お主は人間に対して何もしていない。ならなぜ存在している」

「それは難しい質問ですね。それならちょっとゲームしませんか?」

「ゲームだと?」

「ええ、あそこにいる人間にしましょう。あの人間をこちらに振り向かせたほうが勝ちというゲームです」

「振り向かすだと?」

「はい。方法はどんなものでも構いません。人間がこちらを見れば。貴方からどうぞ、雨雲さん」

 その言葉に雨雲はふんと鼻を鳴らし、簡単だと言わんばかりに身体に溜まった雨粒を人間目がけて降らしました。しかしその人間は空を見ることなく傘を差してしまいました。

「残念ですね。では次はわたしの番ですので、雨を止めてもらえますか?」

 雨雲は仕方なく雨を止めると、人間の上から移動します。すると輝かしい満月の月明かりが、人間目がけて降り注ぎました。
 人間は傘を閉じて空を仰ぎます。そしてなぜかその瞳を潤わせ、ついには涙を流したのです。

 それに驚いた雨雲は言います。

「ど、どうしてあの人間はお主を見ただけで涙を流したんだ?」

 すると満月は自慢げに答えます。

「さあ、それはわかりません。ですが、あの人間はいつもわたしを見ては涙を流すのです」

「満月を見てはいけないと言われているのは女だろう。あの人間は男だ。満月を見て狼に変身するわけでもないのに、なぜだ」

「涙脆いのかもしれません。でもよく見てください。あの人間、女性のようにも見えませんか」

「ん? そうか? 俺には男に見えるが」

 それから雨雲と満月は、涙を流す人間をしばらく観察します。しかし、一度疑いを持ってしまってからはもう、その人間の姿は朧気にしか見えなくなってしまいました。

『嘘を知る子供』

今回のオマージュは、イソップ寓話『嘘をつく子供』です。


「ガオー」

着ぐるみをかぶり子供たちの相手をする。この仕事を続けてもう十年が経つ。

これまでも様々な子供たちと出会ってきたが、私にとって最も印象に残っている子供がいる。少年の名前はわからない。だけどその少年が私を変えてくれたことに間違いはない。

その日はちょうど狼の着ぐるみを着ていた。狼といってもリアルなものではなく、かわいらしい子供受けを狙ったデザインのもの。

それを見た子供は、触ってきたり一緒に写真を撮ったり、時には怖がる子供もいたが、多くは無邪気に接してくれた。

しかし、その少年は違った。私の目の前に突然現れると言ったのだ。

「嘘つきおじさん」

近頃の子供はませているといった第一印象だった。着ぐるみの中には汗だくのおじさんが入っている。その事実を承知の上で接してくる子供は、数は少ないが他にもいた。しかしその少年は違う。着ぐるみの中にいる私、いや、それ以外の何かを見つめている瞳がそこにあった。

「ねえ、おじさんはどうして嘘をついてるの?」

嘘?

私は内心首を傾げた。偽りの身を纏い、姿を変え変装しているといえばしている。ただ、偽ってはいるが、嘘をついているということとは少し違う。そういう認識だった。

私は辺りを見渡す。この少年の親らしき人物はいない。もちろんこのまま少年の問いに答えることは出来ない。契約で「ガオ―」という台詞しか話してはいけなかったからだ。
ひとまず私はその少年を避けるようにして移動する。しかし、その少年はぴったりと私の後をついて来ていた。

それがあまりにもしつこかったので、私は人気のない場所まで移動して、少年と向い合った。そして狼の頭の部分を取って見せた。

「ほら、これで満足かい? 君の言ったとおり私はおじさんだ。これでもう嘘つきとは呼ばないでおくれよ」

すると少年は被りを振って言った。

「その頭についてるものも外さなきゃだめだよ」

「……悪いが少年。私は狼おじさんだ。それはできない」

『ホシと王子さま』

今回のオマージュは『星の王子さま』です。


生意気な後輩が連れてきたのは、まさしく我々が捜し求めてきた人物だった。

「どうです先輩。これで僕も出世街道まっしぐらですかね」

子どものように微笑む後輩に対し、俺は釘を刺す。

「あまり調子に乗るな。まだこいつが犯人だとは限らんだろ」

「でも、アリバイは無いですし、動機だってあります。こいつ以外にありませんよ」

「しかしまだ、決定的な証拠がない。上のやつらもこいつが犯人で間違いないとは思っているようだが、俺は納得していない」

「何をそんなに片意地張ってるんですか? もしかして僕が犯人を捕まえてきたことに嫉妬してるんですか?」

そんなことはない。そうはっきりと言えない自分がもどかしかった。

この生意気な後輩がホシを捕まえることができたのは、単なる運が良かっただけだ。ホシが現れそうな場所を、複数の捜査員が張り込んでいた。もちろん俺も。そして、偶然後輩の張り込んでいた現場にホシが現れ捕まえた。

ホシとして捜査線上にあがった時点で、その人物を捕まえるのがいち捜査員の仕事。捕らえたホシが本当の犯人かどうか関係ない。

自分の中でホシがホシではないという疑念を抱えていても、ホシとなった者を捕まえることによって、評価は上がる。更には自信に繋がり態度が大きくなる。
この後輩はまさにそうだった。

聞いた話によれば、逃げ出したホシを追いかけて捕まえたのがこの後輩。後輩は学生時代陸上部だったこともあり、足には自信があったそうだ。あっという間に追いついて捕まえたという。

俺の忠告を紳士に受け取ることはないだろうと思いつつも、俺は言った。

「いいか。出る杭は打たれるって言うだろ。そんな態度を取っていると、上に嫌われるぞ」

後輩はへらへらと笑いながら言った。

「大丈夫っす。僕の親父、刑事部長なんで」

忘れてた。

どうやらこの王子さまは、そういう星の下に生まれたのかもしれない。

『灰かぶり雛』

今回は『灰かぶり姫』ではなく、『灰かぶり雛』です。


10年ぶりに実家にある自分の部屋の押し入れを開けた。

小学生の頃に使っていた勉強道具や遊具などが乱雑に仕舞われていた。

その中から掌サイズの人形を見つけた。

ホコリのかぶった人形は、どこか寂しげに見える。しかし私はその人形に憶えがなかった。

押し入れにある他の物に関しては、僅かながらにも記憶が残っているのに。

両親に聞いてみても知らないの一点張り。少し不気味に感じた私は、その人形をすぐに捨てることにした。

記憶に無かった物は、無かったことにしてしまえば。


それからさらに3年後。実家を引き払うことになり、再び押し入れを開けた時、記憶の無い人形がそこにいた。

しかしこのホコリのかぶった人形は20年前の物とは違う。一緒であれば記憶に残っているはず。

人形が勝手に動くようなことはありえない。万が一動いたとしても、自ら灰を被るだろうか。

今度はすぐには捨てずに、その人形にこびりついたホコリを拭いてあげることにした。

しかし拭いても拭いても、そのホコリは取れなかった。

すると、魂が乗り移ったのか、その人形が唐突に言葉を発した。

“ワタシハモウ、シンデルノ”

「え」

“ホントウニシンダラ、ヒトノキオクカラモ、イナクナルノ”